航空会社のお仕事コラム【航空機整備士編】1


成田空港の夕暮れ。

一機の旅客機が、ゆっくりとプッシュバックを始めます。
その機体のそばで、青い整備服の男性が静かに立ち上がり、手を大きく振っている・・ほんの少しの間ですが、その姿を見たことがある人は多いと思います。

しかし、なぜ整備士は、あの一瞬に手を振るのでしょうか。

今日はその理由をたどってみたいと思います。

ANA整備士が始めた「グッバイ・ウェーブ」

この文化の始まりは、1970年代の全日本空輸(ANA)にあるといわれています。
当時、整備士たちが出発便を見送る際、自然に「いってらっしゃい」と手を振ったのがきっかけでした。

ANAの社内ブログでも、

「お客様に安全と感謝の気持ちを伝えるために始まった」
と紹介されています。

整備士が手を振るのは、安全を託す挨拶であり、ありがとうのサインでもあるといいます。

今では、その姿はANAだけでなくJALにも広まり、日本の空港では外国の航空会社も同じように「お見送り」をする光景が見られるようになりました。

世界でも珍しい「文化」としての手振り

実は、この「航空機に手を振る」という行為は、実は日本特有の航空文化なのだそうです。

アメリカやヨーロッパでは、整備士は点検を終えるとすぐに格納庫へ戻るのだとか。
時間の関係もあるようですが、独特のjob security(雇用の安定) の考え方もあるようです。

アメリカの航空会社を見ていると、日本の現場とはまったく違う「線引きの明確さ」をみることができます。 たとえば、整備士は機体の整備をする人であって、牽引(トーイング)は牽引担当の仕事。
整備士が「手が空いているから、ちょっと押しておくよ」と手を貸すことはありません。

むしろ、やってはいけないのです。

これが、アメリカ特有の job security(雇用の安定) の考え方です。
日本では「仕事を助け合う」ことがチームワークとされますが、アメリカではそれが「越権行為」になることすらあります。

すこし話題が逸れてしまいましたが、海外では「手を振る」という動作は正式なサインではなく、控えるべき行為だと考えられているのだと思います。

日本では、あえて手を振ります。
そこには「安全確認完了」という意味に加えて、「心を添える」という文化が根づいているのではないでしょうか。

整備士にとっての「手を振る」意味

整備士の仕事は、黙々と続く裏方の世界です。
日々の点検、報告、確認。
派手さはなく、ミスは決して許されません。

出発前、整備士はパイロットと目を合わせ、無線で最終確認を終えたあと、静かに手を振ります。

それは「整備完了、問題なし」というサインであり、「安全に行ってらっしゃい」という祈りでもあるようです。

整備士にとってあの一振りは、安全の証明であり、責任の完結なのです。

「整備士から乗客へのメッセージ」でもある

SNSを見てみると、
「整備士さんが手を振ってくれた!」
「なんだか感動した!」
という投稿をよく見かけます。

乗客に整備士たちの気持ちが伝わっている証でもありますね。

「見られているからこそ、きちんとした姿勢で」
「どうせ見られているなら、堂々と」

姿勢よく飛行機に「いってらっしゃい」をしている姿は、とても凛々しく尊さを感じてしまいます。

「おもてなし」の心が、空港の片隅にある

日本の航空会社のホスピタリティは、機内だけではなく地上にも息づいています。

たとえ雨の日でも、風の日でも。
整備士たちは濡れた制服のまま、飛び立つ機体に向かって必ず手を振ります。

それはマニュアルに書かれているわけではありません。
けれど、整備士たちにとってそれは
「仕事の締めくくり」であり、
「プロとしての挨拶」なのです。

ある整備士はこう語っています。

「自分が触れた機体が、安全に飛び立つ瞬間を見送る。
それが整備士にとってのご褒美なんです。」

素敵だな、と思いませんか?

海外の航空会社も、真似しはじめた

現在ではデルタ航空やユナイテッド航空など、日本に拠点を持つ外資系エアラインでも、日本のスタッフや整備士たちが同じように手を振る姿が見られます。

整備士が手を振る姿は、いまや日本の空港を象徴する風景になっているのです。

最後に――無言の約束としての一振り

飛行機が滑走路へ向かうとき、整備士は最後まで見届けています。
あの一振りには、こうした想いが込められています。

「今日も安全に飛んでください。」
「また、無事に戻ってきてください。」

それは安全の確認であり、祈りであり、そして責任を果たした証でもあります。

もし、飛行機の窓から、手を振っている整備士さんがみえたら・・ぜひ、振り返してみてください。
実は、機内から手を振ってくれている姿は「よく見える」そうです。


参考(出典記事)ANA公式ブログ「Good-Bye Wave のはじまり」
 https://note.com/ca_jp/n/n8706c5b8a9a7
KAWASHIN.info「整備士が出発機に手を振る理由」
 https://kawashin.info/15392
Sky-Article.com「飛行機の出発時に手を振る人は誰?」
 https://sky-article.com/ground-handling-sender-duty/
MyChiw.com「飛行機に手を振るのは整備士?それとも地上スタッフ?」
 https://mychiw.com/wave/
Yahoo!知恵袋「飛行機が出発するとき、整備士が手を振る理由」
 https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q10318861110