空の旅に出るとき、人はさまざまな「おまじない」をしたくなります。お気に入りのキーホルダーを握りしめたり、離陸前に目を閉じて深呼吸したり。そうした行為は、ちょっとした安心の拠りどころになってくれます。

ただ、世の中には想像を超えた祈りのスタイルが存在するようです。

近年、中国を中心に、
飛行機のエンジンにコインを投げ入れて旅の安全を祈る」という、
なんとも困った迷惑行為が報告されています。

またもや中国…安全祈願のため、乗客が航空機のエンジンにコイン投げこむ – トモニュース

どうやら「金貨を投げる=幸運が訪れる」という伝統的な習慣と、エンジンの吸入口の形状が絶妙に結びついてしまったようなのです。

しかし、エンジンは飛行機の命綱です。
宝くじ売り場に投げ入れるのとは訳が違います。吸い込まれたものを細か〜く粉砕するパワーマシンでもあるのです。

最悪の場合、エンジン内部の羽根(ブレード)を傷つけ、命に関わる事故にもつながりかねません。
整備士は、冷や汗ダラダラ。
パイロットには、心臓に悪いどころの騒ぎではありません。
グランドスタッフも、フライトが遅延や欠航かと真っ青です。

数年前上海浦東国際空港で、80歳の女性が安全祈願として小銭を飛行機のエンジンに投げ入れたため、フライトが5時間以上遅れる事態がありました。

硬貨を投げ入れられた中国南方航空の便は出発が大幅に遅延

調べによると、エンジンに入った小銭は1.7元(約28円)相当。
乗客は全員降機となり、機体は整備へ直行。原因が「幸運を祈るため」だったと知った他の乗客は、なんとも言えない徒労感に包まれたはずです。安全を願ったはずが、安全を奪いかねない行動になるとは、なんとも皮肉な話です。

そしてこの行動、決して単発では終わらず、複数回ニュースになっています。「縁起担ぎも、ここまで来ると社会問題」状態。中国の航空会社は注意喚起のポスターを作り、係員も目を光らせています。きっと、グランドスタッフは「今日もエンジンに投げ込まれませんように…」と、願掛けしているに違いありません。

願掛けのコインを投げるなら、飛行機のエンジンではなく、ぜひ噴水やお賽銭箱へお願いしたいところです。

世界の空は、今日も多くの飛行機で賑わっています。安全の裏側には、膨大な努力と技術が支えています。その上に、乗客一人ひとりのちょっとしたマナーが積み重なって、ようやく空の旅は成り立ちます。

どうか祈りは、やさしい形で。

飛行機に乗るその瞬間、自分の心に向かって、そっとつぶやけば十分です。

「今日も、無事に目的地へ。」

この一言で、空はじゅうぶんあなたを受け止めてくれます。


参考(出典記事)
CNN Japan
X by Samhsfbhy