
日本では航空機事故が起こるとしばらくはそのニュースで一杯になりますが、中間報告など事故の経緯などは、自分から探しにいかない限りなかなか手に入りにくい情報でもあります。
インドで起きたAir India AI171便の墜落事故。
「機体に問題はなかった」と報じられたその裏側には、まだ解き明かされていない“何か”、が眠っているようです。
今日は、暫定調査が語ったことと、語っていないことを見つめてみます。

2025年6月に起きたインドのAir India AI171便の墜落事故について、
先日、CEOのキャンベル・ウィルソン氏が暫定調査の内容を語りました。「機体やエンジン、そして運航上の慣行にも問題は認められなかった」というものです。航空会社トップからのこの言葉は、一見すると「原因が見当たらない」という怖さを感じさせます。
しかし同時に、それは航空の世界では珍しいことではありません。航空機事故の調査は、黒か白かの二択ですぐに決着がつくようなものではなく、「分からない部分の輪郭を少しずつ削り出していく」根気のいる作業です。
とくに今回は、両エンジンへの燃料供給がほぼ同時に断たれたことが分かっており、また、
「コックピットの音声録音には、パイロットの一人がもう一人のパイロットになぜ燃料を切ったのか尋ねる声が聞こえる。もう一人のパイロットは、燃料を切っていないと答えた」と、初期報告書にありました。
しかし、なぜ起きたのかは、まだ霧の中です。
「技術に問題がなかった」という結果は、すぐに安心材料になるわけではありません。むしろ、そこに潜む“人とシステムの境界”が浮き彫りになってきます。航空業界は、常に設備を最新化し、訓練と経験で安全を積み重ねてきました。それでも、極めてまれに“想定していない事態”は起きます。燃料供給遮断という現象は、設計やメンテナンスだけでなく、運航の手順、そして人間の判断が複雑に絡み合って生まれる可能性があります。
ウィルソンCEOは「ほかの航空会社の事故であっても、業界全体が学ぶべきものがある」と述べています。安全文化とは、過ちから目をそらすことではなく、「学べる要素を一つも取りこぼさない」姿勢のこと。いまは、原因が明確に示されていないからこそ、慎重な見守りが必要です。
もちろん、最終報告が出るまで、憶測は禁物です。ニュースとしての見出しよりも、その背後にある「人間が空を飛ぼうとした歴史」、そして「それでもなお安全へと歩み続けるチームの努力」を受け止めたいと思います。
客室乗務員も、整備士も、管制官も、そしてパイロットも。すべての人が気づかぬところで、改善のヒントを拾い続けています。
AI171便が教えてくれるのは、「まだ分からない」という段階にも価値があるということ。結論より、過程こそが未来の安全を作るのだと信じながら、最終報告を待ちたいと思います。
✈️ 参考(出典記事)
Financial Express
「Air India crash: Probe found no issues with aircraft, engines or practices: CEO Campbell Wilson」
Aircraft Accident Investigation Bureau(AAIB, India)