
空港に行くと、つい展望デッキで時間を忘れてしまうこと、ありませんか?
大きな翼を広げて空へ飛び立つ飛行機たちを見ていると、なんだか悩み事なんてちっぽけに思えてくるから不思議です。
さて、今日はそんな飛行機にまつわる「ちょっと不思議な話」を一つ。
「エアバスA380」、 総2階建て・・・まるで「空飛ぶホテル」のような威容を誇る、世界最大の旅客機です。日本ではANAがハワイ路線で運航しているウミガメの塗装の飛行機、「フライング・ホヌ」としても大人気ですよね。
成田空港に行けば、その愛らしい、そして巨大な姿を毎日のように見ることができます。
でも、ふと気づきませんか?
「あれ? そういえば羽田空港でA380って見たことないな……」
都心に近くて便利な羽田空港。
たくさんの国際線が飛んでいるのに、なぜかこの「空の王様」だけは姿を見せません。
実はこれ、たまたまいないのではなく、「ある深い理由」があって就航していないのです。
今日は、そんな羽田とA380の「切ない関係」について、少し掘り下げてお話しします。
「滑走路が短いから」ではありません
よくある誤解として、「羽田の滑走路が短いから、重いA380は降りられないんでしょ?」というものがあります。
実はこれ、間違いなんです。
羽田空港には4本の滑走路があり、そのうちA滑走路とC滑走路は3,000メートル以上の長さがあります。
A380は巨大ですが、性能も非常に良いため、3,000メートルあれば余裕を持って離着陸できます。
物理的には降りられる。
設備も整っている。
それなのに、なぜ定期便として飛んでこないのか?
その犯人は、目に見えない「風」。
犯人は「後方乱気流」という名の竜巻
飛行機が空を飛ぶとき、翼の後ろには空気の渦が発生します。
これを専門用語で「後方乱気流(ウェイク・タービュランス)」と呼びます。
船が通った後に白波が立つのと同じで、飛行機も空気をかき分けて進むので、どうしても後ろに気流の乱れができてしまいます。
通常の飛行機であれば、この渦はそこまで大きな問題にはなりません。
しかし、A380は規格外のスーパー・ヘビー級です。
その巨大な翼から生み出される乱気流は、まるで、横倒しになった竜巻のように強力だと言われています。
もし、A380が離陸した直後に、小さな飛行機が後ろを飛んだらどうなるでしょう?
最悪の場合、その強力な渦に巻き込まれて、機体がコントロールを失ってしまう恐れがあるのです。
そのため、航空業界には「A380の後ろは、ものすごく機間距離を空けなさい」という厳しいルールが設けられています。
羽田空港には「待っている時間」がない
ここで、具体的な数字を見てみましょう。
通常、飛行機と飛行機の間隔は、安全のために約5.6キロ(3海里)、空けることになっています。
ところが、A380が前にいる場合、後ろの飛行機はなんと約11キロ以上(6海里以上)も離れなければなりません。
中型機が後ろにつく場合は、さらに距離をとる必要があります。 通常の2倍以上の間隔です。
これを、世界でも指折りの「過密空港」である羽田でやると、どうなるでしょうか?
羽田空港は現在、およそ2分に1回のペースで飛行機が離着陸しています。
まるで山手線の朝のラッシュ時のように、分刻みのスケジュールで動いています。
そこにA380がやってくると・・・・あっという間に空の渋滞が発生してしまいます。
A380を1機飛ばすために、他の飛行機を何機も待たせなければならない。
多くの旅客機をさばかなければならない羽田空港にとって、この「待ち時間」は致命的なのです。
という理由から、羽田空港では「昼間の時間帯は、A380の定期便乗り入れはご遠慮ください」というルール(運用指針)になっているのです。
でも実は、羽田に降りたことはあるんです!
「じゃあ、一生羽田でA380を見ることはできないの?」
そう、諦めるのはまだ早いです(いや、ほぼ無理なのですが、例外があります)
実は過去に何度か、A380は羽田の地を踏んでいます。
1. 伝説のテスト飛行(2010年)
羽田空港に新しい国際線ターミナル(現在の第3ターミナル)ができた際、エアバス社が
「ほら、羽田でもちゃんと使えるでしょ?」
とアピールするために、テスト飛行でやってきたことがあります。
この時は多くの航空ファンがデッキに詰めかけ、その巨体に歓声を上げました。
ちゃんと駐機場(107番スポットなど)にも収まることが証明された瞬間です。
2. 台風の日のサプライズ
成田空港が台風や強風で閉鎖されたとき、着陸できなくなったA380が、目的地を羽田に変更(ダイバート)して降りてきたことがあります。
ルフトハンザ航空やエールフランス航空のA380が、夜の羽田にひっそりと降り立つ。
それはまさに、航空ファンにとっては、幻の〇〇に遭遇したかのような大事件。
SNSは大騒ぎになりました。
つまり、
「物理的には降りられるし、緊急時なら受け入れる。でも、普段はやめてね」
というのが、羽田とA380の本当の関係なのです。
結論:相性が悪いからこそ、成田で輝く
A380が羽田に来ない理由。 それは機体の欠陥でも滑走路の問題でもなく、
「安全のために必要なスペースが大きすぎて、忙しい羽田のペースに合わないから」
でした。
羽田で見られないのは残念ですが、その分、成田空港に行けば彼らはのびのびと翼を休めています。
「羽田は忙しすぎるから、僕は成田でゆっくりするよ」
そんなA380の声が聞こえてきそうです。