
航空の世界では、重大事故の中には「機体の故障」ではなく「人間関係のほころび」が関係していることがあります。
今回、エバー航空のコックピットで起きたとされる暴行事件は、まさにその象徴のような出来事でした。
事件の内容は
「タキシング中、副操縦士が速度超過であること機長に警告をしたが無視され続けたため、標準手順に従ってブレーキを操作。そのことに機長が激昂し、殴打した」という内部告発からわかったというもの。
いったい、コックピット内では何が起こっていたのか・・もう少し、深堀していきたいと思います。
事件の概要
2026年1月1日、ロサンゼルス国際空港から台湾・台北、桃園国際空港へ向け離陸しようとしていたB777-300ERのコックピット内で発生しました。
台湾での報道によると、当該機は台湾籍の機長とマレーシア籍の副操縦士が搭乗していて、機長がタキシングを行っていたようです。
そして事の発端は、副操縦士が「タキシング速度が30ノットを超えている」と繰り返し警告したこと。
機長はこれを無視し、副操縦士が手順に従ってブレーキを操作すると、激昂して殴打したとされています。
副操縦士の手には腫れやあざが残り、この事件を告発した人物は「感情が不安定な機長がそのまま飛行を続けたこと」に強い不安と失望を覚えたと語っているとのこと。
(この内部告発した人物の詳細は、記事内では不明でした)
エバー航空は機長を停職処分としましたが、会社側および台湾の民航局(CAA)による調査では、
QAR(Quick Access Recorder)データでは速度超過は確認されていないというのです。
** QARとは:航空機の運航データを記録する装置の一つで、 「日常運航の振り返り」や「安全管理」に使われる「軽量版フライトレコーダー」 のような存在
現在、具体的な便名などは依然として公にされていませんが、機長の最終的な処分(免許取り消しの可能性など)については、続報が出るものと思われます。
これは「速度超過の有無」よりも深刻な「CRM崩壊」の事案
タキシング速度が実際に30ノットを超えていたかどうかは、運航の安全性において重要な論点であると思います。
しかし、それ以上に重大なのは、
いかなる理由があってもコックピット内での暴力は許されない、ということ。
そして、安全リスクを減らすために導入されている「クルー・リソース・マネジメント」(CRM/乗務員間の連携管理)が、完全に崩壊している状態だということ、です。
タキシング速度の監視は副操縦士の重要な役割であり、 機長が基準を逸脱した場合は、ためらわずに介入する義務があるのは当然のことです。
この「目上に逆らうな」文化がまたはびこっていることに、衝撃を受けました。
逆に、QARに速度超過が記録されていなかったという事実は、 「副操縦士が間違っていた」という意味ではないだろうか?とも考えました。
なぜ速度超過だと判断したかは記事からは読み取れませんでしたが、何かしらの原因があったのかもしれません。
いずれにせよ、全ての安全をカギを握っている機長と副操縦士がコミュニケーションも取らず、コックピットでケンカをしているなんて・・想像しただけでも鳥肌が立つというものです。
不適切な対応
さらに深刻なのは、
暴行を加えた機長が、事件後も精神的に不安定なまま、両操縦士を交代させるなどの処置をせずそのままフライトを継続したという点。
内部告発者は、きっとこの対応をみて、会社の体制や安全への不安を覚えたからこその行動だったのではと思うのです。
台湾の航空当局(民航局)もこの点を問題視しており、暴力行為そのものだけでなく、事件発生後の会社の安全管理体制についても厳格に調査する方針だということです。

まとめ(読後感を残す締め)
今回のエバー航空の事案は、単なる暴行疑惑ではなく、 CRM(Crew Resource Management)の崩壊がどれほど危険か、を改めて示すケースとなりました。
先人たちが築き上げてきた航空安全の根幹を揺るがす要素です。
空の安全は、最新鋭の機体でもAIでもなく、 最終的には「人間の判断」と「人間同士の協力」によって守られると言っても過言ではないと思います。
そして、これは決して壊してはいけない最も重要な関係ではないでしょうか。
参考記事
・EVA Air pilot probed for assaulting first officer while taxiing at LAX(Focus Taiwan by CNA)
・エバー航空、機長と副操縦士がタキシング速度を巡り口論となり機長が副操縦士を殴るトラブルが発生(Sky -Budget)