空の旅を支えている客室乗務員。
その華やかなイメージへの憧れから、機内で「客室乗務員のコスプレ」をして記念撮影をしたSNS投稿が今、大きな波紋を広げています。

JAL(日本航空)をはじめとする日本の航空機内で行われたこの行為。
一見すると、乗客とクルーの微笑ましい交流の一コマにも見えますが、ネット上では「保安意識が低すぎる」「緊急時に命に関わる」といった厳しい批判が相次ぎました。

「たかがコスプレで、なぜそこまで叩かれるの?」
「航空会社が良いって言ったなら問題ないのでは?」

そう感じる方もいるかもしれません。
しかし、一歩日本を離れると、この「なりきり行為」は単なるマナー違反では済まされない「重大な犯罪」とみなされるケースがあるようです。

以前、当ブログではインドネシアのバティック航空で、客室乗務員になりすました女性が逮捕された事件をご紹介しましたが、欧米諸国ではさらに厳しい「航空保安の壁」が存在するのです。

今回は、日本を騒がせているCAコスプレ騒動の経緯を整理しつつ、アメリカやヨーロッパなど、海外の驚くほどシビアな「なりすまし対策」の実態について深掘りしていきます。
空の安全を守る「制服」の本当の重みについて、今一度、考えてみたいと思います。

SNSで炎上した「JAL機内CAコスプレ」事案とは?

ある女性がJALやIBEXエアラインズなどの機内で、本物に酷似した自作の制服やエプロンを着用し、現役の客室乗務員と一緒に撮影した写真をInstagramに投稿していたことが発覚しました。
SNSでは、度々取り上げられて話題にのぼっていたのだそうです。
中には、乗務員から借りたジャケットを着用したり、ギャレー(調理場)内で撮影されたものもありました。

わたしは、今回初めてこれらの写真を目にしましたが、かなり衝撃を受けました。
というのも、自分が勤めていた会社は制服の着用管理規定が厳格で、お客さまに制服を貸して一緒に写真を撮るなど絶対に許されない・・という以前に、そのようなことを考えたことも想像したこともありませんでした。

もちろん、大炎上、です。
航空会社によっては、飛行中ギャレーに軽食や飲み物が置いてあり、自由に欲しいだけ持って行ってよい、というところもあります。
しかし、乗務員と同じ制服を着て機内にいることが、乗客に対して「おもてなし」なのか、「保安意識の欠如」「緊急時に乗客が混乱する」「異物混入のリスク」など・・
航空会社側の管理体制を疑問視する厳しい声が上がりました。

そして、この騒動を受けて、日本の航空会社はコメントを発表しました。

日本の航空各社の対応と国交省の見解

各社の見解:

  • JAL: 「常に客室乗務員の監督下にあり、安全上の問題はなかった」としつつも、寄せられた批判を真摯に受け止め、今後のサービスのあり方を検討する
  • IBEXエアラインズ: 「航空法上の問題はないが、機内はコスプレの場ではなく、誤解を生むためよろしくない」とし、今後は注意・制止する方針
  • ピーチ: 「降機後の撮影であり安全に影響はなかった」とする一方、有事の際の指揮命令系統に混乱を招く恐れがあるため、乗務員になりすますような行為には毅然と対応する

国土交通省の見解: 「機内の着衣を縛るルールはなく、直ちにダメということではない」
ただし、機内業務に支障が出たり、乗務員の指示に従わない場合は、安全阻害行為(航空法違反)に該当する可能性があると指摘。

【比較】海外では「即逮捕」も?欧米のシビアな航空事情

海外では日本以上に「保安」への意識が極めて厳しく、客室乗務員へのなりすましは単なるマナー違反ではなく、刑事罰や多額の損害賠償に直結するケースが目立ちます。
実際に海外であった事例を調べてみました。

1. アメリカ:偽客室乗務員として逮捕・有罪判決の事例

アメリカでは、客室乗務員になりすます行為は、空港の制限区域への不法侵入や詐欺罪として厳格に処罰されます。

  • 2025年の事例(マイアミ): 35歳の男性が他社の客室乗務員になりすまし、バッジ番号などを偽造して計34回ものフライトに無料で搭乗していたとして逮捕されました。
    2025年6月に連邦陪審により、電信詐欺および虚偽の口実による制限区域への侵入で有罪判決を受けています。
  • 保安検査の厳格化: TSA(アメリカ運輸保安局)は、制服を着用していても抜き打ちの身分証確認を徹底しており、偽装が発覚した場合は即座に身柄を拘束されます。

2. 欧米の航空会社における「ドレスコード」の厳格化

欧米の航空会社では、「運送約款」に服装に関する厳しい規定を設けています。

  • 安全と秩序の維持: スピリット航空やデルタ航空などは、「不適切な服装(他者を不快にさせる、または混乱を招く服装)」の乗客に対し、搭乗拒否や降機を命じる権利を明文化しています。
  • 混乱の防止: 客室乗務員の制服に酷似した服を着ている場合、緊急時に他の乗客が「この人が指示を出してくれる」と誤認し、脱出の妨げになるため、保安上のリスクとして非常に嫌われます。
    アメリカの航空会社では、露出の多い服や攻撃的なスローガンのある服でさえ、降機させる対象となるため、制服の模倣はさらに厳しい対応(例えば、警察への通報など)が予想されます。

3. 海外の視点:なぜ「CAコスプレ」が危険視されるのか

海外の航空関係者の議論や記事では、以下の点が特に強調されています。

  • テロ対策: 9.11以降、機内での「権威の象徴」である制服を悪用することは、機内への凶器持ち込みと同レベルの脅威とみなされます。
  • 法的責任: もしコスプレ中の乗客が他の乗客に誤った指示を出し、怪我人が出た場合、航空会社は莫大な損害賠償を請求されるリスクがあります。
    そのため、欧米の客室乗務員が機内でコスプレを容認し、記念撮影に応じることは、自身の解雇リスクを伴うため、まず考えられません。
  • 機内食の安全: JALの事例でも指摘された「ギャレー(調理場)への入室」は、海外では毒物混入やハイジャックの準備を疑われる行為であり、一発でブラックリスト入りの対象になり得ます。

おわりに

なお、投稿した女性のSNSアカウントは、批判を受けて現在は削除・閉鎖されているとのことです。
客室乗務員に憧れがあった、という書き込みもあったようですが、結果的に大好きな航空会社の客室乗務員にも会社にも迷惑をかけてしまったことは、ご自身にとっても非常に悔やまれることではないでしょうか。

コスプレは、時と場所をしっかり把握、熟考してから行いましょう、という良い教訓にもなったことでしょう。


参考記事
飛行機で「CAコスプレ」波紋 国交省「直ちに運航に支障ない」が…「誤解生む恐れあり、よろしくない」と見解示す社も(J-Cast News)
Florida man convicted of posing as flight attendant to score more than 100 free flights
Federal Jury Finds Man Guilty of Posing as a Flight Attendant to Obtain Free Flights
SPIRIT AIRLINES CONTRACT OF CARRIAGE (PDF)
Delta Air Lines: Contract of Carriage
Yes, Airlines Have Dress Codes—Here’s What to Know Before You Board