再発防止という言葉を、私たちは何度聞いたでしょう。
それでも、またひとつ信頼が失われました。

またしてもおきた「飲酒による遅延」

2025年9月、ホノルル発・中部国際空港行きのJAL793便。
その便に乗るはずだった機長が、出勤前の飲酒で乗務できなくなりました。

滞在先のホテルで、数本のビールを飲んでいた――。

たったそれだけの出来事が、600人を超える人々の予定を狂わせ空港に長い夜をつくりました。

安全のための判断だったとはいえ、
「またか」と感じた人も多かったでしょう。
JALでは過去にも、似たような事案が繰り返されています。
それでも、信じたい――「次こそは変わる」と。

怒りではなく、深い失望

乗客の多くは、怒ってはいません。
むしろ、ただ静かに失望してる感じでした。

「命を預ける相手」が、自らの行動でその信頼を傷つけたという事実に、です。

小さな子どもを抱えた家族、帰国便を待つ高齢者、この飛行機で大切な人に会いに行く予定だった人たち。
そのひとりひとりの胸の中に残ったのは、
「もし、あのまま飛んでいたら」という想像です。

遺族の記憶が呼び起こすもの

1985年の御巣鷹山事故から、今年で40年。
空の安全は、多くの命の犠牲の上に築かれてきたはずです。

あの事故で家族を失った遺族たちは、
「同じ悲しみを二度と味わってほしくない」
と願い続けています。
だからこそ、こうしたニュースが流れるたび、決して癒えない悲しい記憶がよみがえるのです。

群馬県上野村にある慰霊碑

“人の手で防げるはずの出来事”が、また人の油断によって起きてしまった。

「機長も人間」という現実と向き合う勇気

厳しい勤務、時差、孤独。
海外滞在の夜、静かなホテルの部屋で、ほんの少しのアルコールが「気の緩み」を誘うのかもしれません。

わたし達は、機長を「完璧な操縦士」として見ています。
そうであるべき、そうでなくてはならないから。
けれど、彼らもまた人間です。
人間である以上、弱さもある。
だからこそ、その弱さを支える仕組みが必要だと思うのです。
叱責だけでは変わらない。
孤独の中に手を差し伸べる仕組み――
それこそが、本当の“安全対策”ではないでしょうか。

制度ではなく、心を支える仕組みを

国交省の厳重注意、JALの再発防止策。
形式的な対応は、すでに整っています。
それでも繰り返されるということは、そこに「人の心」を見落としているからでは?
という疑問が残ります。

チェックリストでは測れない安心。
マニュアルでは守れない信頼。

それを築くのは、日々の対話と、互いの思いやりであるとわたしは思うのです。

信頼は、日々の小さな誠実さから

空の旅は、たくさんの信頼で成り立っています。
整備士を信じ、乗務員を信じ、
そして、機長を信じて乗り込む。

その信頼を取り戻すのに、派手な改革はいりません。
一人ひとりが「自分の行動を誰かが信じている」
と思いながら働くことはとても大切。
それが、失われた信頼を少しずつ積み上げていく道
なのだと思うのです。

どうか、もう二度と――
大好きな空に悲しいニュースが流れませんように。
信頼が再び翼になる日を心から願っています。