最近、飛行機のニュースで
「機内で暴れる乗客」「マスク拒否」「酔って大暴れ」
といった見出しを目にすることが増えました。
あの日、機内の空気がピンと張った
ある日のフライトで離陸してまもなく、後ろの席から大きな声が聞こえてきました。
酔っているのか、男性が「トイレに行きたい!」と怒鳴り、客室乗務員が静かに制止していました。
すぐに落ち着いたものの、機内の空気は張りつめました。
たった一人の行動で、空の上の「安心」が一瞬にして揺らぐのです。
アメリカ:「もう警告はしない」という決意
そんなトラブルを背景にアメリカのFAA(連邦航空局)は2021年、「ゼロ・トレランス(Zero Tolerance)」政策を導入しました。
日本語にすれば「一切の寛容なし」
つまり、やったら終わりのルールです。
当時はコロナ禍の真っただ中。
マスク拒否や暴言などのトラブルが急増し、1年でおよそ6000件もの「乱暴な乗客」案件が報告されました。
これを受けてFAAは、警告ではなく即罰金・即捜査へ方針を転換。
罰金は1件あたり最大3万7000ドル(約550万円)にもなります。
その結果、機内トラブルは60%以上減少したといわれています。
それでも完全にはなくならず、FAAは今もFBIと連携して厳しく対応していく、まさに「安全に対して妥協しない」という姿勢です。
日本:静かな空にもある“曖昧さ”
日本でも、ANAやJALが「お客様ハラスメント防止」を掲げ、暴言・暴力・セクハラなどへの対応を強化しています。
それでも、
実際に罰金や刑事罰に発展するケースはほとんどありません。
どこまでが「安全を脅かす行為」なのか、線引きがあいまいなままなのです。
2024年には、ANA機で酔った乗客が客室乗務員を噛みつき、羽田に引き返したという事件も起きました。
乗務員の方が「お客様は神様ではなく、一緒に空を守る仲間」と、語っていたのが印象的でした。
ヨーロッパ:みんなで変える「空の意識」
ヨーロッパでは、EASA(欧州航空安全機関)が中心となって「#NotOnMyFlight(私のフライトでは許さない)」というキャンペーンを実施中。
これは、航空会社・空港・乗客が一体となり、「乱暴な行為を見逃さない」「沈黙しない」と宣言する取り組みです。
2025年には、オーストリア政府と航空会社が共同で、乱暴乗客への対策をさらに強化する宣言を出しました。
ヨーロッパは罰則よりも「意識を変える力」で安全を守ろうとしているのが特徴です。
社会全体で「安全な空をつくる」という発想が広がっています。
アジア・オセアニア:少しずつ進む“明文化”
インドでは、乗客の行為を3段階に分け、
最も軽いレベル1で最大3か月、最も重いレベル3で2年以上という搭乗禁止という制度を導入。
「空のブラックリスト」が本格的に運用されています。
オーストラリアでは、酔って暴れた乗客が飛行機を引き返させ、燃料費込みで1万ドル以上の罰金を科されたケースも。「自分の行動が他人の旅を止めたら、その代償は払う」
そんなシンプルで力強いルールが、空の安全を支えています。
“ゼロ・トレランス”は怖くない
“ゼロ・トレランス”という言葉を聞くと、少し厳しい印象を受けるかもしれません。
でも、それは「罰するための言葉」ではなく、「守るための約束」なのです。
「ただ無事に目的地に着きたい」
その思いは、乗務員も乗客も同じなんですよね。
私たちにもできる、小さな“空のマナー”
飛行機の中は、数時間だけ共に過ごす小さな社会です。
ちょっとした「ありがとう」や「すみません」が、空気をやわらかくします。
ゼロ・トレランスの考え方は、決して他人事ではなく、私たちが気持ちよく旅をするためのやさしいルールでもある、とわたしは考えています。
次に空を飛ぶとき、もし少しだけ心に留めておけたら。。
それだけで、世界の空は少し穏やかになるのではないでしょうか。
✈️ 出典:FAA「Zero Tolerance Policy Against Unruly Passengers」(2021–2024)
ABC News「FAA makes ‘zero tolerance’ policy permanent」(2022)
Reuters「FAA refers 43 unruly passengers to FBI」(2024)
EASA “#NotOnMyFlight” campaign
DGCA India「Civil Aviation Requirements」(2024)
Business Insider Japan「ANA機、乗客が乗務員を噛みつく」(2024)
JAL/ANA「お客様ハラスメント防止ガイドライン」